「ものづくりで未来を創造する」—株式会社リンクス代表・原勝則さんの造形哲学
この度、松原や南河内地域で活動する方を取材する、「人」にフォーカスした特設ページを公開しました。
今回は大阪・関西万博の松原市ブースやトルクメニスタン館の外装も手がけた株式会社リンクス代表・原勝則さんのインタビュー内容をお届けします。
幼少期から続く「手を動かす喜び」
株式会社リンクス代表取締役・原勝則さんは、幼い頃からものづくりに心を惹かれてきた。
「物心ついたときから、竹を削ったり、粘土をこねたりしていました」
工作や絵に没頭する時間は、原さんにとって遊びであり学びだった。自然と「つくる」という営みが生活の一部となり、その積み重ねが美術大学への進学につながる。
大学では油絵を専攻したが、卒業制作で手がけたのは虎ほどの大きさの立体造形だった。人工毛を貼り付け、命を吹き込むように仕上げていく作業は、自らの適性を強く実感させた。
「立体造形は自分に向いていると感じました。やっぱり手を動かして形にしていくのが自分の原点だと思います」
独立の決断と試練の日々
大学卒業後は、堺市にある美術造形の会社に就職。工作の範疇を超える大型造形のダイナミズムや仕事としてものづくりをするという世界を体感した。
やがて2007年に独立。「自分で営業して、自分が納得できるものをつくりたい」という気持ちが、挑戦へと駆り立てた。
「周りからは早すぎるのではと言われました。でも、年を取ってからでは遅い。今やらないと一生やらないと思ったんです」
独立からの5年間は苦労の連続だった。「今思うと自分の造形技術にも未熟な分野があり、例えば塗装などやり直しばかりで徹夜することもしばしば、小さな仕事を取るのも大変でした」、だが誠実に取り組む姿勢は少しずつ周囲に伝わり、やがて「指名」で依頼を受けるようになる。
「8年目くらいから、ようやく信頼して任せてもらえるようになりました」

法人化と仲間との歩み
2019年、原さんは法人化を決断する。大きな仕事に携わるためには法人格が必要という現実があった。
「そのときに集まった仲間は、今も変わらず一緒に働いています。スタッフは10名ほどで、全員が美術大学や美術専門学校出身。造形に情熱を持った人たちです」
「美術造形業は全国で2000人くらいの造形職人がいるのではないかと思います。小さい業界ですが、希少価値の高い職人たちです。関西で会社組織として活動しているのは10社くらいでしょうか。弊社は、営業はほとんど行わず、依頼の多くはネットや紹介経由です。」
実績と信頼が次の仕事につながっている。
技術を体系化する「造形の教科書」
原さんがライフワークとして進めているのが、造形技術を体系化する「造形の教科書」づくりだ。
「これまで美術造形の世界では口伝が基本でした。でもそれでは業界が大きくなりません。マニュアルがあれば、もっと技術が磨かれ、競争も生まれるはずです」
もちろん、マニュアルだけで全てが学べるわけではない。カテゴリごとに直接教える場を設け、座学と実践を繰り返すことが必要だと考えている。
「どういう原理で成り立っているか、自分で考えられるようになることが大事です」
失敗例も積極的に記録する。その実体験は、次の世代にとって貴重な教材となる。

松原で生まれた作品
大阪・関西万博で開催された大阪ウィーク・松原市ブースで展示されたスケートボードオブジェクトも、リンクスの作品だ。
「小さな子どもが実際に乗って喜んでいる姿を見て、関われてよかったと思いました」
「作り手は、機会があれば来場者に混じって、自分の作品がどう言われているか聞き耳を立てているものです。ここはもう少し良くしたかったなという部分を、お客さんがあまり気にしていなかったり、逆にこだわった部分がお客さん目線からだと少しずれていたことに気付いたりといった感じです。良い評価は、素直に嬉しいです」

万博では、連日多くの人で賑わったトルクメニスタン館の馬オブジェも手がけた。

「腕を磨くとは頭を磨く」
原さんは「ものづくりにも法則がある」と語る。その中心にあるのが「腕を磨くとは頭を磨く」という考え方だ。
「ただ手を動かすのではなく、なぜそうなるのかを理解することが大切。考えることで応用が効き、技術が磨かれるんです」
AIが台頭する時代にあっても、造形の価値はむしろ高まると信じている。
「AIは使うものであって、取って代わられるものではありません。効率やクオリティを高めるために活用することで、造形はもっと洗練されていくと思います」
松原から広がる未来
原さんは、会社の規模をむやみに拡大するつもりはない。一人ひとりの技術を高め、質の高いチームを維持していくことを重視する。
「好きなことを仕事にするのが一番です。好きだからこそ失敗したとき反省し、改善できる。やり続ければ、必ずベテランになれます」
そして拠点である松原市については、
「高速道路がどの方向にも伸びていてアクセスが非常に良いです。工場で製作したものを現地に取付けに行くタイプの業者には大きなメリットがあり、関西圏のお客さんにとっても、比較的ストレスなく製品チェックに来れる利便性の良い所です。大阪市内に比べて工場維持費を抑えることができるので、市のサポートがもっと充実してくればものづくりの町としての発展も期待できます。美術造形の会社が存在する市は珍しく、今後地域とコラボして、何か面白いことができればと思っています」
最後に、原さんは未来への願いをこう結んだ。
「ものづくりで日本の明るい未来に貢献したい。それが私の目標です」
Writer
松原市観光協会・編集長 真本
